"旅する音楽家"のホテルでの過ごし方 | ピアニスト 吉川隆弘

ピアニストとしてのキャリアを重ねてきた今、
思うこと

 

現在、ミラノ在住。グローバルな活動をし続けているピアニストの吉川隆弘さん。日本へもリサイタルやコンサートのために度々帰国している。東京藝術大学を卒業後、大学院修士課程を修了し、渡伊。イタリアで、アルフレッド・コルトー、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリの高弟アニタ・ポリーニに師事。オーケストラでセッションをしてみたいという気持ちから、ミラノスカラ座のアカデミーに進み、その流れでミラノに住み続けてもう25年になるという。

 

2001年の国際コンクールでの上位入賞を皮切りに、数々の国際コンクールで優勝するという輝かしい成績を残してきた。ピアニストとして活動を開始してから20年以上過ぎたわけだが、改めて吉川さんにとってピアノとは、という素朴な質問をぶつけてみた。「自分を表現するための道具ですね。同時に、ピアノそのものが『表現する楽器』でもあるので、そのピアノの魅力も引き出さなければならない。そんな存在でしょうか。料理で言うと、包丁であり、素材という意味でもあるんじゃないかと思います」プロとしての自信を客観視しながら淡々と語る吉川さん。

「作曲家は曲と戯れながら弾いてもらうことを想定して楽譜に落とし込んでいると思うので、それを弾き手がどう解釈するか、ということだと思います。読み取り側としてこれがベスト、ということはないのかもしれませんね。弾いていて幸せだなと思うのは、自分が考えていること、解釈している思いと、作曲家の思いが重なる瞬間を感じた時でしょうか。その瞬間を感じられることが弾き手としての理想ですね」

 

これまで、ヨーロッパを中心に、様々な国で演奏してきた吉川さんだが、ピアノに対する姿勢などや、気持ちの大きな変化などはあったのだろうか。

「そうですね、若い時は基本的に“上手に弾くこと”を重視していた気がしますが、年月を重ねるうちに、どういう風に表現するかということに重きを置くようシフトしてきましたね。昔は競争心も強かったですし、どうしてもコンクールのような場だと、速く、間違えずに弾くことが評価されるので、そういうことを意識してやっていたと思います。それは仕事として、ピアニストとして舞台で演奏する、ということとは全く関係ない世界でした。」

自分の表現、という言葉を繰り返し語りながら丁寧に言葉を重ねる吉川さん。「作曲家はそれぞれ独特のクセがあります。一筋縄ではいかないのが一流の音楽家。そういう方の作品を演奏していくことに今は集中しています。上手に弾く、という感覚でいると多くの人を感動させられない、届けられないと思いました。年齢を重ねたということもあると思いますが。今は作曲家の表現に沿うこと、自分の表現をすることに関心がありますね。」

 

吉川さんにとっての旅とは?!
ホテルでの過ごし方

 

「様々な国へ行ってはいますが、実は旅を目的として行っていることがあまりありません。ほとんどピアノのコンサートのために訪れています。印象に残っているところですか? いろいろありますが、スペインのガリシアは、北西部に位置している緑豊かな場所で、非常に美しかったですね。サン・セバスティアンも美しい街で、オーケストラでのツアーで訪れたのですが、印象的で記憶に残っています。コンサートでその地に行った時は、美術館などを訪れたり、ご飯を食べたり、街そのものを楽しみます。そういったところでの過ごし方も、間接的には自分の感性や演奏にはつながっているとは思います。」

 

思い出に残っているコンサートについても質問してみた。「どのコンサートも思い出深いので選ぶのは難しいです。例えば、沖縄のサロンで演奏したことがあるのですが、素晴らしかったです。小さなギャラリーだったのですが非常にアットホームでホールとはまた全然違いました。」ホールのような大規模な場所での演奏と小規模な会場で演奏するのとでは演奏家としても気持ちが違ってくる。と、吉川さんは言う。「元々ピアノという楽器はサロンコンサートが基本だったわけです。昔は貴族のサロンなどで演奏したりしていました。大きなコンサートホールも無かったですしね。」「ホールでの演奏も素晴らしいのですが、小規模な会場ではお客様の反応を直に感じられるところが良いですね。ホールで演奏する機会が多いですが、どちらにもそれぞれの良さがあります。」

これまで吉川さんが、コンサートの際に利用したホテルについても気になるところ。「コンサート会場に近いことがまず第一なのですが、私の場合、第一印象が重要だったりします。感覚というか。空調の音が騒々しいのは苦手です。レストランのBGMとか…。でもこうして考えてみると音が気になるのかもしれませんね。その上で、居心地がいいということだと思います。」と吉川さん。たくさんのホテルの中で、印象的に残っているホテルを聞くと「ベルリンにあった古いホテルのことを思い出します。最上階で、部屋の天井が斜めになっているような部屋で、広くて居心地が非常に良かったです。新しくて綺麗なホテルもいいけれど、情緒のある雰囲気を持つホテルにも惹かれます。」

 

ホテルでの過ごし方も自身の感覚を大切にされている吉川さん。普段気をつけているルーティーンや食のこだわりなどはあるのだろうか。「よく眠ることですかね。朝ご飯もしっかり食べます。イタリア料理が多いですが、なんでもいただきますよ。その土地の美味しいもの、例えばドイツだったらパンが美味しいのでいただきますし、基本的にはなんでも食べます。日本食も大好きです。」

ホテルグランバッハ東京銀座は
斬新なコンセプト

 

実は吉川さんは、ホテルグランバッハ東京銀座にて第一回目のサロン・コンサートの演奏をしていただいた方でもある。「コロナ禍だったのでよく覚えています。銀座という場所もホテルの雰囲気もよかったですし、ジョン・ケージの『In a Landscape ある風景の中で』を弾いたのですが、とてもお客様が喜んでくださったのを思い出しますね。」

 

ホテルの印象も聞いてみた。「J.S. バッハがコンセプトのホテルというのが想像できなかったので最初は驚きました(笑)。バッハの音楽は素晴らしいですが、最近たくさん勉強しているうちに、だいぶ見方も変わってきました。一般的には教会の音楽を作曲していて、精神にいいというイメージがあります。それから雰囲気もよかったですが、ホテルに滞在する時の楽しみとして、食事は大きな要素だと思うので、ホテルグランバッハさんが提案しているウェルネスキュイジーヌはすごくいいと思いました。バーも上品ですよね。丁寧にオリジナルのカクテルを作ってくれるのが楽しみです。ホテルの雰囲気も品がよく、居心地がいいホテルだと思います。」と度々訪れていただいているバーについても語って下さった。

そして、ホテルでのサロン・コンサートについても話を続ける。「ホテルは、宿泊だけでなく、食事をするところだったり、お店があって買い物をしたり、カルチャー、そういうものが結局大切なんじゃないかなと思います音楽を聴くこともそうですが、美味しいものをいただくことだったり、人の生活を豊かにするのに芸術や音楽の存在は大きいです。そのホテルでのサロン・コンサートはお客様にとっても非常に魅力的ですよね

 

空間を共有しながら、自分の好きなものを聴いて、見て。五感を至福にする時間は何より人生を豊かにする、という吉川さんの言葉に大きく頷いてしまう。これからもプロの音楽家として、様々な国やホテルなどでのコンサートを通じて、より一層感性を積み重ねていくのだろう。

■聞き手 & 執筆:
久保 直子 | ウェルネス&ビューティージャーナリスト/ 植物療法士/アロマデザイナー/アーユルヴェーダ・ライフカウンセラー
CONTACT  Instagram @naonaonaozou/

■撮影:
市来 朋久

 

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